【はじめに】
「正しいことをしているのに、自分だけ損するのは嫌だ」――そんな気持ちになったことはありませんか?
- 周囲がサボっている中、自分だけ頑張るのがバカらしい
- 協力すべきだと分かっていても、裏切られたくない
- 「みんなのため」より「自分の得」を優先してしまう
実はこうした葛藤は、「囚人のジレンマ」と呼ばれる有名な心理的ジレンマにぴったり当てはまります。
本記事では、この“ジレンマ”がなぜ起きるのか、どんな場面で現れるのか、どうすれば解決できるのかを、わかりやすく解説していきます。
【第1章】囚人のジレンマってなに?
■ シンプルな設定
2人の容疑者が取り調べ室に分けられ、次のような条件を提示されます。
- 自分だけ自白 → 自分は無罪、相手は重罪
- 両方黙秘 → 軽い罪(1年)
- 両方自白 → 中くらいの罪(5年)
- 自分だけ黙秘 → 自分は重罪(10年)、相手は無罪
■ 結果の早見表
自分の選択 | 相手の選択 | 自分の刑期 | 相手の刑期 |
---|---|---|---|
黙秘 | 黙秘 | 1年 | 1年 |
自白 | 黙秘 | 0年 | 10年 |
黙秘 | 自白 | 10年 | 0年 |
自白 | 自白 | 5年 | 5年 |
■ なにが問題なの?
「協力すれば軽く済むのに、裏切ったほうが得かも…」という気持ちが生まれ、 結果的にお互い裏切って損をするという状況になります。
この矛盾こそが「囚人のジレンマ」の本質です。

【第2章】人間の“裏切りたくなる”心理
人が協力より裏切りを選びたくなるのは、次のような心理があるからです。
■ 「損したくない」
→ 損失を避けたいという心理(損失回避バイアス)
■ 「信じるのが怖い」
→ 特に一度きりの関係では、信頼よりも保身が優先される
■ 「相手の気持ちは読めない」
→ 他人の行動が読めないとき、人は最悪のケースを想定する
▶ でも裏切りにはリスクがある
- 信頼を失うと関係は崩れる
- ビジネスでも恋愛でも、失った信頼を取り戻すのは大変
裏切りは短期的には得に見えても、 長期的には大きな損失になることが多いのです。

【第3章】現実社会にある“囚人のジレンマ”
囚人のジレンマは、架空の話ではありません。実際の社会にもたくさんあります。
■ 価格競争(ビジネス)
同業者同士が協力して価格を維持すれば、利益も安定します。 でも、1社だけ安売りすればシェアを奪える…と考えて値下げ競争に突入。 結果:全社が利益を削って疲弊する。
■ 軍縮競争(国際政治)
武器を減らせば世界は平和になる。 でも「相手だけが武装していたら怖い」と思い、どの国も軍拡へ。 結果:冷戦のような緊張状態が続く。
■ SNSの“いいね返し”
「いいね」やフォローは本来、好意の表現。 でも「もらったら返さないと…」という義務感に変わると、 コミュニケーションが義務的・損得勘定になり、疲弊してしまう。
■ 恋愛の駆け引き
「素直に好意を伝えたいけど、相手が引いたら怖い」 「先に告白して断られたくない」 → 結果、どちらも本音を言えず、関係が進まない。
【第4章】“信頼”を生むには?
ジレンマを乗り越えるカギは、信頼と繰り返しです。
■ 一度きりは裏切りやすい
初対面やその場限りの関係では、裏切りが合理的に見えてしまう。
■ でも、繰り返すことで信頼は築ける
ゲーム理論では「しっぺ返し戦略(Tit for Tat)」が有名です。 これは、「相手の前回の行動に同じ対応をする」戦略。 → 裏切ったら裏切り、協力したら協力する。これによりバランスが取れ、信頼が育まれます。
■ 協力が生まれる3つの条件
- お互いの選択が見える(透明性)
- 長期的な関係(繰り返し)
- 裏切りにコストがかかる仕組み(社会的制裁など)
【第5章】私たちはどう行動すべきか?
現代社会では、個人も企業も国家も「協力か裏切りか」の選択を常に迫られています。
でも、短期的な得だけを求めて裏切ると、長期的には損をする。
一方で、信頼を築き、協力し合えば、全体の幸福度も上がっていく。
そのためには:
- 相手を“敵”ではなく“味方候補”と見てみる
- 自分から先に小さな信頼を差し出す
- 長く続く関係を意識する
この3つが、“裏切りの連鎖”から“信頼の連鎖”へと切り替える第一歩です。
【まとめ】
囚人のジレンマは、単なる理論ではありません。
私たちの仕事・日常・人間関係の中で、静かに、そして確実に作用しています。
だからこそ、裏切るより、協力した方が得になる社会の仕組みを、 ひとりひとりが作っていくことが大切です。
「あなたは裏切りますか? それとも、信じますか?」
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