ソニックブームとは
ソニックブーム(sonic boom)とは、物体が音速を超えて移動する際に発生する衝撃波によって、地上に大きな爆発音のような音が響く現象です。
これは単なる「速い音」ではなく、空気の圧力が急激に変化することで生じる物理現象です。
飛行機やスペースシャトルが音速を突破する瞬間、「ドンッ」「バリバリッ」といった大音量が地上で観測されることがあります。この音がソニックブームです。
音速とマッハ数
ソニックブームを理解するためには、まず「音速」について知っておく必要があります。
- 音速とは、音が空気中を伝わる速さのことです。
- 標準大気(気温15℃、海面付近)では 約343 m/s(時速1235 km/h)。
- 飛行機の速度は「マッハ数」で表され、マッハ1 = 音速、マッハ2 = 音速の2倍を意味します。
つまり、飛行機やロケットがマッハ1を超えた時に、ソニックブームが発生する条件が整うのです。


ソニックブームの仕組み
飛行機が空気中を飛ぶと、機体の前方に圧力の波が生じます。
- 亜音速(音速未満)の場合、この波は前方に逃げていき、通常の音として広がります。
- しかし音速を超えると、空気の圧力波が逃げられず、前方に「壁」のように圧縮されます。
- この圧力が一気に解放されることで、衝撃波(shock wave)が発生します。
衝撃波は機体から円錐状に広がり、「マッハコーン」と呼ばれます。これが地上に届いた瞬間、人々には雷鳴や爆発のような音として聞こえます。
どういう時にソニックブームは起こるのか?
ソニックブームは「音速突破」という条件さえ満たせば発生しますが、実際に人々が体験できるのは限られた状況です。以下に典型的なケースを紹介します。
1. 戦闘機のスクランブル発進
自衛隊や各国空軍の戦闘機は、領空防衛や緊急発進の際に音速を突破することがあります。
- 日本でも、F-15戦闘機などが急上昇してマッハ1を超えると、地上で「爆発音のような大きな音がした」という通報が寄せられることがあります。
- 特に沿岸部や都市近郊では、窓ガラスが揺れるほどのソニックブームが観測されることがあります。
2. 実験的な超音速旅客機
1976年から2003年にかけて運行されたコンコルドは、マッハ2で飛行可能な旅客機でした。
- しかしソニックブームが問題視され、都市上空では飛べず、主に大西洋横断路線に限定されていました。
- 現在はNASAや航空機メーカーが「静粛超音速機」の研究を進めており、将来再び旅客利用が可能になると期待されています。
3. 宇宙機の大気圏突入
スペースシャトルやロケットが大気圏に再突入する際、音速を超えて降下するためソニックブームが発生します。
- アメリカではスペースシャトル帰還時に「二重のソニックブーム」が鳴り響くことが知られていました。
4. 実験機や研究飛行
- NASAや各国の研究機関は、ソニックブームを抑える機体形状の実験を行っています。
- 特に「X-59 QueSST」という実験機は、衝撃波を分散させて「ドンッ」ではなく「ポフッ」といった小さな音に変えることを目指しています。
ソニックブームの特徴
- 突発的で大音量
雷や爆発音のように聞こえるため、人を驚かせます。 - 一度だけでなく連続的に発生
超音速で飛んでいる間は衝撃波が常に発生し、地上では「一瞬の音」として届きます。 - N波形の気圧変化
計測すると、急上昇→急降下→再上昇という「N字型」の波形を描くことから「N波ソニックブーム」と呼ばれます。
ソニックブームの影響
人への影響
- 大きな驚きや不快感を与える
- 一部では耳への負担も報告
建物への影響
- 窓ガラスの破損
- 老朽化した建物へのダメージ
環境への影響
- 野生動物の行動変化
- 騒音公害としての社会問題
このため、都市部や陸上での超音速飛行は制限されています。
未来の展望:静かなソニックブーム
現在、航空業界では「静かなソニックブーム(Low-boom technology)」の研究が進められています。
- 機体形状を工夫して衝撃波を分散させる
- 爆発音ではなく「低い音」や「ポフッ」とした音に変える
- NASAの「X-59 QueSST」プロジェクトが注目されており、2030年代には都市上空でも超音速旅客機が飛べる可能性があります。

まとめ
ソニックブームとは、物体が音速を超えることで発生する衝撃波による大音響です。
- 戦闘機のスクランブル発進
- コンコルドの飛行
- スペースシャトルの大気圏突入
といった場面で実際に発生します。
騒音や建物被害のリスクから、都市上空での超音速飛行は制限されていますが、将来的には「静かなソニックブーム」を実現する技術によって、新しい時代の航空輸送が可能になるかもしれません。

コメント